2008年11月27日

221系の衝撃

Emaiko_136 昭和から平成に移行したそのころ、関西で実に衝撃的な電車が走り始めた。
白い車体は縦に大きな、そして旧型電車のような幅の小さな4枚の連続窓(うち2枚は下降式、2枚は固定式)、その前後には戸袋窓もつき、3ドアでありながら転換クロスシートを主体としたオールクロスシート・・
シンプルで上品な内装デザイン、柔らかな曲線で構成された正面形状や側面デザイン。
外観デザインはJR西日本が投入した車両ではこれほど美しいものはほかにないと思えるほどだ。

この車両こそ、新生JR西日本が自主設計の第一陣として世に問うた221系電車だ。

近郊型ということだったが、転換クロスの車内は急行形をはるかにしのぐ居住性を有し、特急電車をも凌駕するその上質な雰囲気は「阪急に追いつき、追い越せ」と努力を続けた大阪鉄道管理局=JR西日本の総決算とも言えるものだった。

当初、京阪神の快速用として使用されたため、それまでの113系電車とあまりにもイメージが違いすぎ、乗客には相当の戸惑いもあったし、いざ、乗りなれてくると113系を敬遠してこの電車が来るのを待つ乗客もあったほどだ。
国鉄末期に製造された117系電車が国鉄として可能な限りそれまでの「慣習」を打ち破った設計であったにもかかわらず、私鉄各社に流れた乗客を取り戻すまでにはいたらなかったのだけれども、この221系電車は新生JR西日本の好印象を決定付け、一気に乗客を増やしていく。

221系は最高速度120キロで設計されていたため、これが新快速に運用されると、従来の最高速度110キロの117系では性能的に追従することが難しくなってしまう。
そこで、JRは新快速の最高速度を向上させる際に、いったん110キロから115キロにして、この状態でならなんとかついていける117系を改造し、115キロ対応にした。
221系は中間車の場合、座席定員が117系と揃えられた。
3ドア化に伴う座席定員の減少を極力抑える良心的な設計思想だったが、そのためには117系で行われていた向かい合わせになる座席のピッチ拡大は行われず、全体にやや窮屈になった感は否めない。
それに、ドア脇の立席スペースがなく、3ドアになったとは言っても、かえってドア付近では117系より混雑することにもなった。

221系の人気は上昇し、JRが運賃値上げを控えた時期に私鉄各社が運賃を値上げしたこともあり、JR西日本への乗客の評価は向上し、当初、117系と同じ6連で十分と見られていた新快速の運用もすぐに全車が8連化、117系も編成組み換えで8連にせざるを得なくなるという嬉しい誤算をもたらす。
平行私鉄は221系の登場になすすべもなく、ただ脅威の眼で見守るしかないのが現状だった。

3ドア、向かい合わせの窮屈な直角型のボックスシート、ドア横の小さなサイドシート、粗末で実用一点張りの内装といった国鉄の近郊型電車のイメージを一気に変えてしまった221系の衝撃は非常に大きなものがあったのだけれども、この電車には様々な事情が絡み、結果として最も良い形で登場したということになるのだろうか。

JR西日本は旧国鉄の負債を抱え込んだ本州3社の中では、幹線を名乗りながらも実態は長距離ローカル線である山陰線や関西線、そして国鉄時代に処分できなかった本来のローカル線を抱え込んだほか、主力の新幹線は乗客が一気に減少する新大阪以西の山陽新幹線しか経営できず、また、通勤幹線たる京阪神の各路線も平行私鉄との激烈な競争関係にあった。
その中にあって、他のJR各社が華やかに新製車両を投入するのを指をくわえてみていたわけではないのだろうが、限られた予算、厳しい経営環境から、設計の要する時間も予算も限られ、なおかつ、最高の効果を発揮できる投入と言うことが部内で論議されたようだ。

その結果か、非常に斬新に見える221系電車ではあるが、走行システムは国鉄末期に登場した本四備讃線213系や山手線205系のものを組み合わせて取り入れ、車体は近畿車輛が近鉄の中距離急行用5200系にデザインしていたスケッチから近鉄が採用しなかったものを選んだという噂まであるほどで、これはあたらずとも遠からずだろう。
近鉄5200系はJR221系より車体長がやや長く、車端部分の座席はボックスシートではなく転換式、また、団体用運用の際にドア脇の補助座席を使えるようになっていて、中央部のドア間の座席は1列少なくなっている。

JRの場合、ボックスシートにも捨てがたい利用価値もあり、今のデザインになったのではないだろうか。

221系先頭部のデザインは213系の展望グリーン車、クロをリファインしたもののように見える。
また、大きな連続窓の設計のためにステンレスやアルミを使わず、鋼製車体となったとされるのが一般的だが、予算を出来るだけ抑えるために鋼製車体を前提とし、その分、設計の自由度が増したとも聞いている。
鋼製車体とは言っても国鉄時代に散々下降窓で苦汁をなめた経験から、腐食しやすい部分にはあらかじめステンレスを使っているということだ。
このあたりには117系の改良型100番台の経験もあってのことだろう。

電車の性能としては特に目新しいものではなく、国鉄時代に確立された技術を効果的にリファインしながら、関西にあうようにアレンジされたものだったけれども、その投入の仕方が短期間に集中的に特定の線区に対して行われたことで、一気にイメージアップにつながっていったのではないだろうか。
当初、京阪神の快速、新快速、それに関西線・環状線の「大和路快速」に集中的に投入された。

後に後継となる223系の登場により、新快速の130キロ運転が始まり、これにより新快速運用を追われてからは阪和線、福知山線、山陰線京都口、奈良線などにも進出し、それら線区でもやはり非常に好評のようだ。

さて、かの阪神淡路大震災の復興時に、それまで阪和・関西空港線で運用されていたVVVF制御の223系を221系にあわせて改良し、やはり221系の問題点でもあったドア横のスペースを拡大、あわせて近鉄5200系のようにドア間の座席を1列減じ、その分同じように補助席を設け、最高速度を130キロとした223系が投入される。
この車両の投入に当たっては美人女優による派手なTVCMで堂々と「223系新快速」と報じ、これまた大きな人気を博した。
223系はその数を一気に増やしていき、震災の復興工事がJRより遅れた民鉄各社を尻目に乗客が激増した新快速は、このあと、ラッシュ時には基本ダイヤの倍の列車が設定されるばかりか、すべての列車が12連で運転されるほどに成長する。

Emaiko_106

脇役に降りた感のある221系は、それでも、「白い快速」として利用者に好かれ、走っている。
(JR西日本が命名したアメニティライナーという愛称は残念ながら広がらなかった)
僕は時折、この221系快速に乗車するけれども、223系と違い、なんとなく国鉄の香りを残す走行音や落ち着いた車内の雰囲気に、まったく異なるコンセプトの車両だけれども国鉄の165系電車を思い出してしまう。
特に時速90キロ程度で淡々と走っていると、165系のあの静かで柔らかな乗り心地がよみがえってくるようだ。
そういえば、国鉄設計車両を増備した車両以外・・つまりJR西日本が独自に設計・新造した車両では唯一の並行カルダン駆動であることなどもその要因だろうか。

JR西日本は221系の集中投入により、大きな効果を発揮できたことからか、新製車両は基本的に集中投入ということになっていて、それは特急車や気動車、交直両用電車も同じことだ。
その結果、並行する競合交通機関が少ない広島地区などではJRになって20年以上、1両の新車も投入されない異常な事態にもなっている。
今後は後継車両の登場で余剰となる221系などがこれら地域にまわされる可能性はあるのだけれども、それはなにか、ある意味、利用者を差別化しているように思える部分も確かにある。

ただ、個人的には非常に好感度の高い221系電車はどこへ移ろうとも永く走って欲しいと願うのだけれど。

posted by こう@電車おやじ at 17:29| Comment(9) | TrackBack(0) | 僕のJR感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする