車両というものはまさにその時代の文化の集積物であり、保存されるというのは意義の大きなことだとは思う。
だが、その車両が保存された後、荒廃するのはこれは、国鉄など鉄道事業者には見えていることであり、それゆえに、それと国鉄の場合は「廃車解体」というその行きつく先を明らかにすることによって帳簿上の問題点を亡くしてきた部分もあり、自治体などからの保存要請には「無償貸与」という形をとってきていた。
国鉄が解体され、保存車両の原簿は各JRに移行されたが、その頃より役所の予算、人手不足により保存されている車両の状態が劣化し、時にはほとんど崩壊するような状態になってしまったのは、それを見る地元住民や、鉄道ファンには哀しいことであった。
状況が若干改善されたのはここ数年で、鉄道ファンや地元ボランティアの方々の意識が変わり、積極的に地元の文化遺産として活用しようという機運が満ちてきている。
それには博物館として多くの車両を保管してきた各団体の努力というものが認められてきたという事もあろう。
鉄道会社でも保存の意義を理解してくれて、これまで保存には熱心でなかった会社でも積極的に自社の文化遺産を守ろうとする傾向がみられることは良いことだと思う。
北海道、安平町のD51 320号機・・
おそらく日本で一番美しい静態保存機だろう。
この罐は雪のない季節には週に一度、建物の外に出てくる。
そのための移動機が一緒に保管されている。
安平にはキハ183もある。
なおこの町内には他にキハ183もう一両と、スハフ45がある。
北海道、室蘭の旧駅舎。
線路は外されたが建物は見事に保守されている。
その真横にD51 560号機が保存されている。
海の見える場所であり、保存には絶望的な場所であるはずが、ロッド磨き出し、きちんと手入れのされた個体だ。
国鉄から貸与された時からずっと磨き続けているのだろうか。
九州、鹿児島県吉松のC55 52号機。
ここもロッドは磨き出しだ。
昨今の九州山間部は人口の減少著しく、こういった地道な作業も人を集めるのに難儀しておられないだろうか。
一人の意を決した人があれば機関車の美観は保たれる。
吉松がかつては鉄道の街というほどに、鉄道員やその家族、関連企業により栄えたその証を伝える証人でもある。
岐阜市梅林公園のD51 470号機。
ここは友人にご教示いただいて初めて訪問したが、その美しさに絶句した。
岐阜と言えば、あっさりと名鉄600V ネットワークを崩壊させた、鉄道をないがしろにするイメージがあっただけに意外な、そして嬉しい出会いだった。
その岐阜市、駅前には懐かしい御大がいる。
名鉄揖斐線急行用だったモ513だ。
市内の公園で劣化していたものをここに移設、岐阜市が本腰を入れて保存されている。
様々なイベントを行いながら、車体を磨き続けているボランティアの存在は大きい。
夜景は美しい。
和歌山県、有田川鉄道保存会にいたころのD51 827号機、油が滴りおち、艶を放つ罐は本当に美しかった。
このあと、827号機はえちごトキめき鉄道に貸し出され今に至る。
有田川には看板代わりのD51 1085号機もいる。
こちらも良好な保存状態だ。
有田川鉄道保存会はこのほかにも富士急行出自のキハ58、樽見鉄道や北条鉄道出自のレールバスも保存されいずれも見事な整備状況でもある。
そしてワタシが神戸のD51 1072号機を整備するのにまず最初に訪問し、実際の保存車両の扱いについてご教示をいただいたところでもある。
片上鉄道保存会、
貴重な国鉄キハ07出自の気動車、キハ702。
国鉄キハ04出自のキハ303。
そして自社発注のDD13を先頭にした客車列車編成。
鉱山記念館の一角である吉ヶ原駅構内に見事な状態で車両たちが並んでいる。
惜しむらくは、コロナ禍以降、中止されている運転イベントが未だに復活しないことで、これには町の支援やボランティア側の都合もあるだろうが、どうか再開を心から祈る。
加古川市鶴林寺にあるC11 331号機。
SLブームの前に国鉄から貸与された罐で、昨今はその痛みが酷い状況だった。
だが、同じ加古川市のキハ2を手掛けるメンバーの一人が意を決して市と交渉、作業が始まった。

今では非常に美しい状態となり、同市を代表する公園で市民のアイドル的存在に帰り咲いた。
長野県小諸市、同市の象徴的観光地である懐古園駐車場、しかも蕎麦の名店、草笛本店の真ん前に位置する場所にあるC56 144号機。
保存というにはあまりにも酷い状況だった。
それが最近手入れされ、見違えるように美しくなった。
これは行政によるものだが、美装なった後に日常の手入れをするボランティアが必要で、その点ではまだ不安が残る。
岐阜県美濃市、かつての名鉄美濃駅はボランティアによりきちんと運営されている。
駅舎も美しい。
保存されているのはかつて岐阜地区で走った電車ばかりで、この地域の路線が大好きだったワタシには涙が出る思いだ。
こうして見ると、現役の頃のままだという錯覚さえ起こる。
この美しさを日常的に維持するのは大変なはずで、しかもここは独立採算を維持して、グッズや鉄道、音楽のレトロな商品などの売り上げで車両を維持し、自治体に家賃まで支払っているという。
神戸でD51イベントをする際、大いに勉強させてもらったところだ。
岐阜県谷汲村、旧名鉄谷汲駅跡。
駅舎の建物は建て替わった。
だが、改札口付近の雰囲気は営業当時を思わせてくれる。
かつての車両が並ぶ。
それも非常に美しい。
だが、かつて活発な鉄道路線で容易にアクセスできた谷汲へは今や公共交通は殆ど崩壊状態にある。
岐阜県で有数の観光地であるというのに・・
新幹線車両も保存されている。
大阪府摂津市、新幹線公園に保存されている0系21形。
非常に美しい。
ここにはEF15も保存されているが見事なコンディションだ。
四国、鳴門市のC11は非常に荒れた状態だった。
鉄道ファンではないが地域をこよなく愛する女性が神戸のD51に相談に来られた。
そこでいろいろ助言させていただき、ただメンバーに鉄道ファンという人が皆無で、公園を美しくしたいとの思いの人ばかりだった。
結果、機関車は見事に美しくなった。
そして美しくなったからとイベントを開催し、機関車の前で皆が阿波踊りを踊る。
この機関車こそが日本一、幸せな機関車ではないだろうかと思った。
加古川市のキハ2、貴重な別鉄道の遺産だ。
ボランティアの活動が活発で非常に美しく整備されている。
同じ別府鉄道でもこちらは加古郡播磨町大中遺跡公園。
DC301とハフ5が現役当時のままの美しさで保存されている。
美しい保存車両を見ると嬉しいが、そうではないもの、荒れたものを見ると哀しい。
小樽市博物館のキハ82、準鉄道記念物とのことだ。
だが、台枠は腐蝕し外板と台枠が剥離し始めている。
もはやこれ以上の保存にこのままで耐えられるとは思えない。
解体されそうになりながら救出された事例もある。
兵庫県加東市播磨中央公園のC56 135号機。
解体の予算がついて万事休すかと思われたが、ワタシの目には根本的なところは痛んではいないように見えていた。
後に大井川鉄道が引き取っていったとのこと、今整備中だそうだ。
保存車両の維持は経年や環境による腐食との戦いだ。
昨今ではクラウドファンディングが大流行りで、例えば福岡市貝塚公園のナハネフ22をクラウドファンディングにより資金を集めて綺麗にという事も行われた。
よく見ると窓ゴムが違う・・というか、窓回りが原形を失っている。
鉄道車両を扱っていない業者に委託したからこうなったのだろうか。
だが、窓ゴムも窓ガラスも今現在でも本来のものは入手可能だ。
もちろん、保存にあたり様々な部分をメンテナンスフリー化することを否定はしない。
ワタシ自身も車両保存にあたって窓枠の構成をアルミに変えてしまえばと提案したこともある。
そして同じ綺麗にするなら、連結して保存されている蒸気機関車49627も綺麗にしてほしかった。
問題は補修方法ではなく、業者に委託して綺麗になった車両を今度はボランティアなり自治体也がその美しさを保つために、定期的な手入れができるのかというところだ。
神戸市でもその問題はあるわけだが今もなんとかなっているという感じだろうか。
東灘区小寄公園の神戸市電1155号、台風で破損し、そのまま解体とも思われたが、市によって美しく再整備された。
兵庫区御崎公園の広電から里帰りした1103号。
尼崎市のD51 8号機。
ここは行政とボランティアの連携で美しさを保っている。
企業で保存されている好例、兵庫県小野市カコテクノスにある神戸電鉄1117号。
余りの美しさに涙が出る。
ワタシもスタッフで参加している神戸電鉄デ101、クラウドファンディング成立により保存車両の仕事に手慣れた企業に依頼して美しさを取り戻した。
今はさらに原形への回帰という事で二度目のクラウドファンディングも成立、間もなく工事にかかる。
先にも書いたが、保存車両の維持は腐食との戦いだ。
それにはいったん綺麗にした後の常時の手入れが必要だ。
そこを忘れて資金集め、業者に委託だけでは車両の保存は継続できない。
また、車両が文化遺産であり、それを地域の方々に知らしめる運動も必要だ。
先達から学び、自分たちで考え、地域とのつながりを持ちながら神戸駅前のD51 1072 を今後も維持していけるよう改めて決意を表明する。
夜景、街灯の少なかったところでもあり、神戸市からLEDによる街灯扱いでライトアップが為されている。
周囲が明るく、華やかになり街の治安が向上した。
イベント、D51前を中心に地元団体とイベントを行った。
機関車を背景に「安平町雪だるま大使」の高橋涼子さんが歌う。
博物館でもない、普通の街中の公園や、道端、駅前などにある機関車や電車、それらにはそこに保存された意義があるわけで、今必死の人たちが維持に努めている。
北海道狩勝峠近く、新内の59672と後ろの20系客車。
特に客車は貴重なもので、個室寝台車も含まれる。
現地の方々が一生懸命に維持しているが、哀しいのは鉄道ファンによる車両部品や銘板類の盗難だ。
暖房機キセまで持って行ってしまう浅ましさには強い怒りを覚える。
こうなると、鉄道ファンは車両保存にとって敵でもある。
今、ワタシが力を入れさせてもらっているのが北海道津別町のオロネとスハネの2両。
ほぼ原形を保っているがここでも銘板類はずいぶん盗難の憂き目にあっている。

だが鉄道業界の方のご教示により補修用の窓ゴムを入手でき、その作業ができた。

車両保存を今後も進めていくには世代交代も必要で、さてそれ上手くいくかが我々の大きな任務なのかもしれない。
最後に鉄道ファン諸氏へ。
クラウドファンディングの登場により、「口だけ出す」から「口もカネも出す」になったのは良いとして
もうひとつ、「カラダ」も出してほしい。
そして保存車の部品を盗むなどという恥ずかしい行為をしないで欲しい。
切なる願いだ。
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