今回のダイヤ改正は名鉄や近鉄、関東各社など一部私鉄なども含めた大変大掛かりなもので、その分、話題も多く、特に北陸新幹線の敦賀開業、関西・中京と北陸を結ぶ特急の敦賀打ち切りは大きな話題となった。
だが派手な改正の陰で、静かに地元から消えていった名車に思いを寄せる人は如何ほどおられるのだろうか。
そう、JR西日本221系の東海道山陽線(通称Aライン)からの撤退だ。
(ただし、当面、播但線運用として網干区に1編成が残るほか、向日町・草津間の草津線・湖西線運用、新大阪駅前後でのおおさか東線運用はこのラインで僅かながら見られることになる)
JR西日本221系は1989年、平成元年の登場だ。
同じ年にJR東海の311系、JR九州の811系が登場、その前年、1988年(昭和63年)には新生JRグループで初の新設計近郊型、JR北海道721系が登場している。
これら4系列はいずれも3ドア、転換クロスを採用。
国鉄はその末期において将来の車両の理想像を、特急型=リクライニングシート、急行型=簡易リクライニングシート、近郊型=ゆったりしたロングシートもしくは転換式クロスシート、通勤型=ロングシートと定めていて、ラッシュ混雑がまだまだ激化の一途をたどった首都圏をもつ、JR東日本以外のJR各社は、理想を転換クロスシートに求めた。
ただ、国鉄が作り出したキハ66・117系・115系3000台、213系のような2ドアではなく、むしろ名鉄6000系や山陽5000系、近鉄5200系といった私鉄の3ドアクロス車に範を求めたのかもしれない。
最初に転クロ近郊型を出したのがJR北海道721系であり、分割民営化直後の新会社の「やる気」を感じさせるには十分だった。
それまでの極寒地での車両は2ドアという慣例を破った3ドア車両、そして急行型を上回る居住性を持つ転換クロス・・
近郊型は乗客の移動距離も長く、通勤通学用途とはいえ、ある程度の快適さを追及する必要があったわけだ。
特に私鉄と競合し、なんとしても乗客を奪わねばならなかった京阪神地区を持つJR西日本、中京地区のJR東海には快適な近郊型=快速用車両の登場は急務だったと言えるのだろう。
JR東海の場合、真横で派手に転クロ車ばかりを走らせていた当時の名鉄を凌駕するには画期的な近郊型311系が必要だった。
しかも名鉄はJR発足前にSR系をモデルチェンジして再増備を進めていた。
九州においても西鉄への対抗、そして旧来の国鉄式、狭苦しいシートの近郊型からの脱却を狙って811系を登場させている。
快調に走り始め、好評だったこれら、JR化初期の転クロ近郊型ではあったが、線区によっては激化するラッシュへの対応に無理を感じることもあり、やがてはラッシュ用に立ち席を増やしたり、あるいはロングシートに基準を変更したりしているシーンも数多い。
ただ、JR西日本に限っては北陸地区から山陽地区まで、一部ワンマン専用の線区や純然たる通勤電車区間を除けば、押しなべて転クロ車で統一されており、現状では京阪神新快速と同じサービスレベルの車両が各線区で走っているということになっている。
(気動車も新型では転クロとされていて電車のイメージを地方にもの意気込みを感じる・・その割に紀勢線南部の観光路線でわざわざロングシートに設計変更した227系を走らせているのは、ラッシュ時の混雑の激しい和歌山線との共通運用とはいえ、やや疑問にも感じるが)
ただ、僕自身が全国のこれら車輛を登場当時から見ることができていたわけではない。
仕事・生活に追われろくに鉄道趣味活動も出来なかった時代、あるいはせっかく北海道へ仕事で行っても、とても鉄道路線などに近づく時間的余裕のない時代もあり、関西圏・中京圏以外ではなかなか追うことができなかったのもまた現実だ。
彼らの活躍はまさに、雑誌やのちにはネットでようやく知るだけでもあった。
理想を追求してその理想通りに事が運べば全く問題はなく、喜ばしい限りだが鉄道にはラッシュ輸送という重要な使命がある。
特に別途特別料金を収受するわけでもない近郊型電車のサービスアップは、逆に言えば座れない乗客と座っている乗客との格差となって表れてしまう。
もちろん、クロスシート設定にすることで座っている乗客と立っている乗客の間での例えば「足を踏んだ」などのトラブルは激減されるが、それ以前に詰め込みの問題だろう。
関西や中京のようにそう言った車内設備に慣れている乗客が多ければそれなりにうまく利用していただけるのだろうが、なかなかそうはいかない。
九州では今後は近郊型電車はすべてロングシートである旨が発表されているし、北海道でも731系からは極寒地向けのロングシートという新しい標準が出来上がった。
関西で馴染みのある転換クロスという形態が一部地域で否定されてきたわけで、ファンとしては少々残念に思うところもあり、また致し方なしと思う事もある。
さて初期転クロ通勤型・・
理想を求めただけに、ゆったりとした座席を多くしたものがほとんどだ。
この点、JR各社の参考になったと言われる1988年登場の近鉄5200系は3ドアで大半の座席が進行方向を向けるが、ドア横には立ち席スペースも設けられていた。
(近鉄は車体長が1メートル長いゆえ可能になる配置だった、逆に車体幅は近鉄が150ミリ狭い)

その車内(更新後)、車体幅が狭いゆえに、座席もJR各社と比すと狭くなっている。
JR西日本221系はその増備規模も大きく、一気に新快速・大和路快速を置き換えた。
これにより新快速の120キロ運転が実現し、大幅なスピードアップ、そして一気にイメージチェンジを果たした。
京阪神間の乗客は激増、全列車の8連運転、やがて12連運転へと進化していくが乗客が増えるとドア横にほとんど立ち席スペースのない構造ではラッシュ輸送に限界を感じてしまう。
この系列はドア横に戸袋窓があり、その部分にも座席が設置されていた。
未更新の車内、座席生地は変更されている。
221系の後、阪和線用に登場した223系0番台は221系と同じ窓配置の車内の座席は片側一列の3列だった。

だが、223系を京阪神用にアレンジした1000番台では近鉄5200系と同じく、出入り口脇の戸袋部分に立ち席を設け、混雑時以外はここの補助席を使える構造となって、ラッシュ用の立ち席に配慮したものとなった。
そうなると221系の出入り口付近も改善の必要性が高まる。
結局、221系は1両辺り座席を3列撤去して、立ち席スペースとし、閑散時にはそこで補助席が使えるように改造された。
大掛かりな車体改修も必要と言われていたが、鋼製車ゆえの思い切ったデザインにはほとんど手を加えられることなくラッシュ対応改造ができたのだから一利用者である僕もホッとしたものだ。
少しでも座席をゆったりとさせたい近郊型、あるいは快速用途の車両では、常にラッシュ輸送との板挟みをどうするかが命題になってしまうが、それでも工夫を凝らしながら転換クロスを貫くJR西日本には脱帽する。
だが、このあとの転落防止柵取り付けについては、元々のデザインが非常に美しい流線形である221系にはどう考えても防止柵のデザインそれ自体が納得ができない。
せめて柵の地色を黒にして車体色と分ければ遠目には良かったのではないだろうか。
JR東海の311系も戸袋窓を持つタイプで、221系と同じ欠点を抱えている。
だがこちらは総両数が60両とやや控えめなこともあり、後継の313系に主力列車の座を明け渡すことにより、車いすスペース以外の改造は行われていない。
特急用371系と並ぶ311系、この両系列を4両程度の一本の編成とし、特急「ふじかわ」「伊那路」などを一部特別車の快速化すれば、非常に使いやすい列車になるのではないだろうか。
JR九州では近郊型電車は基本的にロングシート化されることが発表されている。
それはそれで地域の実情に合わせるのだから致し方のないことだろう。
聞けばロングシートもこれまでの水戸岡デザインとは異なり、ベンチ状ではなくクッションのあるものらしい。
理想を追求しても地域の特性もあるし、会社の体力の問題もある。
ある程度後退するのはやむを得ないだろうが、せめて快速列車に特別な編成が欲しいと思うのは、たまにそこへ出かける旅行者の勝手な思いなのだろうか。
新旧の近郊型電車が並ぶ。
JR北海道も札幌都市圏のラッシュ混雑の激化は大問題になっていた。
特に乗降時間を短縮するためにロングシートの電車を投入。
寒冷地でありながら、仕切りドアを持たず、エアカーテンで車内外を分けるやり方で、純然たる通勤電車の投入となった。
721系は今も活躍しているが、傷みが目立ち、特に窓に貼った飛散防止フィルムの劣化により、殆ど車窓が楽しめない現状は哀しいものがある。
721系の車内。
非常に高品質な車両だ。
JR東海が中央線に315系ロングシート車を投入、通勤仕様でありながら落ち着いた車内は好評らしい。
このあと、315系に都市快速用のクロスシート車ができるのかどうか、その辺りが東海の近郊型将来像の見極めだろうか。
お隣の名鉄では特急用途以外の転クロ車は製造されなくなっている。
当面、211系や311系を315系で置き換える作業が続くが、そのあとという事だ。
国鉄が解体され、JRが誕生して早37年になる。
これまでこの世代の転クロ車両は東海の一部を除いては引退はしていなかったが、西の221系は京阪神から追われ、北の721系も置き換え用車両の設計に着手されたと伝わってきている。
クロスシートを徹底し、奮闘する西は今後もクロスシート主体で行けるだろうか。
更新後も奈良所属の221系のうち、6連、8連のものは今でも転落防止策のない美しい姿で走っている。
その雄姿を。

JR東海311系が並んだ。
左はトップナンバー編成、右はラスト編成だ。